Report イベント報告

アートと社会3 研究空間・集う場とは?— 様々な事例から場所作りについて考える

2015.02.01

日時2015年2月1日(日)18:00〜20:00(開場17:30)
収録場所KIYOKO SAKATA studio
ゲスト李珍景(スユノモN研究員)、渡邊太(社会学者)

韓国で研究空間スユ+ノモを立ち上げた李氏、大阪で自宅カフェ太陽や自主的な学びの場であるコモンズ大学を運営する経験を持つ渡邊氏お招きし、場所づくりについて考える研究会を行った。前半はそれぞれの活動の事例についてお話頂き、後半は司会に文化の杜学芸員の町田恵美氏が加わり「集いの場」について、話しを深めていった。

会場の様子

会場の様子

まず、現在李氏が関わっている研究空間スユノモNについて。活動の始まりは1999年までさかのぼることができる。当初10人ほどだったメンバーの活動は増殖をし続けることで、会員だけでも60人を超えるようになったスユ+ノモ時代を経て、今現在は南山講学院とスユノモN、スユノモRにそれぞれ分化された。スユノモNという研究空間は基本的に研究者の共同体ではあるが、決して研究者だけが専有している場ではない。そこには多彩な色を持つ人々がそれぞれ自分の活動をしながらも、集合的な身体のリズムをつくりだしている風景がみられる。組織を運営するための資金については、基本的にスポンサーをつくりそこに依存するという方式は望まない。資金は活動をつくり、その活動に人を引き入れることで解決することを原則とする。毎月集めている会費以外にも、各種ゼミや講座や李珍景の哲学教室や人文社会科学研究院など、実感を持って理論的経験を整理しようとする様々な活動を通して自力で調達している。年に一度、海外から講師を招き国際ワークショップを行う。毎日ご飯をつくって食べる。月2回の会員会議を主催する。などのルールがある。

李珍景氏

李珍景氏

李氏はまた単一の中心によって統合される有機的共同体とは異なる‘特異的共同体’、すなわち複数の特異点によって形成される共同体を志向しているという。特異点(=共同体の構成員)それ自体は多様性を持ち、それらの間には距離と間隔がある。これらの距離と間隔は衝突を最小化したり、息をつくことができる根拠にもなるが、同時に望んでなかった要素が入り込むことで分裂と解体をもたらすという側面から、可能性と危機の要因が同時に含まれているとも言えよう。

共同性は共同の活動によって形成される共同の情動や感覚、共同のリズムによってつくられ作動するという側面から共通性とは異なる。空間はまさにこのような共同性を形成する物質的な条件になり、共同体の空間は共につくっていく活動によってはじめて作動する。李氏はこのような空間を‘共-間’と命名することで、‘共’の動詞的意味を強調している。特に、一緒に食べること(communion)は共同性をつくる重要なきっかけとなるため、それを準備し提供する過程は共同体に訪ねたみんなに開かれるべきである。李氏によると、‘贈与’の行為を通して我々は共同体の構成員になる。贈与は多義多様性を持つ。例えば、楽しみ、知識、笑い、新しい感覚、食べ物、活力など、能力の増加または喜びの情動を引き起こす全てが贈与の内容になる。最も重要な贈与は、‘(誰かにプレゼントをもらった人がその後また誰かに)プレゼントをあげるようになれる能力’である。コミュン的触発を通じて何かを分かち合い、他人に何かを与えることができる生き方を考えさせ行わせることとも言える。そして対立と葛藤の重ささえ軽くしてくれる笑いがあふれて愉快な雰囲をつくることもだいじである。嬉しい情動の共同体になれるためには笑い(ユーモア)の大気ははかからない要因であろう。

渡邊太氏

渡邊太氏

渡邊氏がかつて運営していたカフェ太陽2は、普通の民家にこたつがひとつある部屋がカフェとして使用され、そこは見知らぬ初対面のひととも一緒の同じこたつを囲む空間であった。それは前店主から引き継いだとされる空間で、利益を求めず人が集まる空間をつくることについて考えたという。また、研究はどんな場所でもできるということでもある。ひきこもりやニートの支援を行っているNPOカフェ・コモンズで、現在毎週金曜日に運営している「コモンズ大学」について、スユノモと同様に一緒にご飯を食べてから、講座などの勉強を行っているとのこと。当初スユノモを意識し、きちんと勉強を行うつもりであったが、いまでは講座にくる様々な年齢の方たちと食卓を囲み、会話をすることがメインになりつつあるという。コモンズ大学の活動のなかでユニークなのは、引きもこりの若者たちと駅前で鍋を囲むというものである。「見られる」ことを極端に意識する彼らもあえて衆人環視にさらされる環境に身を置くことで、自分たちが「見られている」のではなく、むしろ自分たちが通行人を「見ている」のだという意識が生まれるという話であった。必要なのは自分たちがなにを彼らに提供(まさしく「贈与」)できるか、そして彼らから何を受け取るか(もうひとつの「贈与」)、ということであるのではないだろうか。

両氏のお話から「共同研究空間」について知識と理解を深めることとなり、自分たちがここでどのような「空間」を目指すのか、どのように運営するのか、ひとびとが集う空間をどのように提供できるのか、ということを思考し共有することとなった。

 

ゲスト略歴

李珍景:<研究空間スユ+ノモ>という知識-共同体を作って活動し、今はそれの分化した共同体の一つである<スユノモN>で活動している。ソウル科学技術大学で哲学と文化・芸術論を教えている。<ノマディズム>、<コミューン主義>、<不穏なものたちの存在論>などの著書がある。

 

渡邊太:1974年大阪生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。2012年から大阪国際大学人間科学部心理コミュニケーション学科専任講師。専門は文化研究・宗教社会学。『現代社会を学ぶ―社会の再想像=再創造のために―』(共著、ミネルヴァ書房、2014年)などの著書がある。