Report イベント報告

ふたつの沖縄展をふりかえる―その違いがもたらすもの

2015.02.08

日時2015年2月8日(日)10:00-12:00(9:45 開場)
収録場所沖縄県立博物館・美術館 美術館講座室
ゲスト翁長直樹(元沖縄県立博物館・美術館美術館副館長)、鈴木勝雄(東京国立近代美術館主任研究員)

2007年に「沖縄文化の軌跡 1872-2007」展を企画された元沖縄県立博物館・美術館副館長の翁長直樹氏と、2008年に「沖縄プリズム 1872-2008」展を企画された東京国立近代美術館主任研究員の鈴木勝雄氏のお二人をお招きし、「ふたつの沖縄展をふりかえる―その違いがもたらすもの」と題してお話頂いた。まずは、両氏にそれぞれ企画した展覧会についてご紹介頂き、後半は文化の杜学芸員の町田恵美氏の司会で翁長氏と鈴木氏による対談が行われた。

翁長直樹氏

翁長直樹氏

「沖縄文化の軌跡」展は、琉球処分以後の琉球=沖縄、沖縄ゆかりの美術を中心として、絵画、彫刻、建築、工芸、書、文学、音楽、舞踊、表象文化まで文化総体を展示し美術館の開館に併せ、県民に広く五感を通した沖縄文化の歴史を紹介するという主旨のもと構成された展覧会であった。この展覧会において特徴的だった点は、現在から過去にさかのぼるように展示会場が構成されたことと、「美術展」ではなく「文化展」と題された展覧会だったことである。

翌年に東京国立近代美術館にて開催された「沖縄プリズム」展は、二項対立の政治的な関係に、「見る」・「見られる」という表象の力学を重ね合わせた上で、沖縄の作家と本土の作家の100年に渡る「交渉史」を示す展覧会だった。沖縄から誕生した造形芸術と多くのドキュメントを複眼的に検証することによって、そこから浮かび上がる沖縄の喚起力や磁場を再考する目的があった。

鈴木勝雄氏

鈴木勝雄氏

展示構成において、「沖縄文化の軌跡 1872-2007」展では、書や建築・文学の雑誌やレコードまでが展示されており、広く沖縄の文化を体験する内容であり、「沖縄プリズム 1872-2008」展では文学や雑誌、特にドキュメンタリーなどの映像が多い構成であった。対談では、両展において「美術」に特化した展覧会ではないという特殊性と、会場における「音」の重要性の共通点について話された。また、「美術」という分野だけでは語れない、他ジャンルとの関連を含めて、「美術」を今一度沖縄文化全体の中で捉え直す意義について語られた。鈴木氏は、なぜドキュメンタリー映像を展示したのかという質問に対して、「東京」という土地で沖縄の展示を行うにあたり、その時代毎の「沖縄」の空気感、雰囲気を知ってもらうためにはドキュメンタリー映像を流すことが効果的であったと回答している。

会場の様子

会場の様子

質疑応答では、それぞれの展覧会の試みが挑戦的だとの賛辞があった一方、沖縄の文化を130年という枠で語られることへの疑問や、それ以前の歴史・美術が空白ではないか、との厳しい意見もあった。翁長氏は1609年からはじめることも予定していたが、これまでその時代を扱った展示は多くあった。この「沖縄文化の軌跡」展では、現代まで通じることを主としており「沖縄」がはじまった1872年からはじめることが妥当だったと話す。鈴木氏も同様の意見であった。

両展の開催から歳月が経った現在、当時とは当然違った社会の状況がある。しかし、過去の再考とそこで見えるジャンルの横断的な想像力は、現在へと繫がる問いかけでもあり、「美術」を問い直すことがこれからの表現を考えていくことにも繫がっていく。

この二つの展覧会の比較から見える事柄とそれらを通して初めて提示される歴史には、今の状況を変革する手掛かりが潜んでいるのではないだろうか。また、今後の課題として提示された、同様の問題を抱えているアジア諸国との比較も有効であると思われる。

 

ゲスト略歴

翁長直樹:1951年沖縄県生まれ。琉球大学教育学部美術工芸科卒業。1995年から県立美術館建設担当として、2007年の開館以来携わり、2009年、同館副館長に就任。主な企画展として「沖縄戦後美術の流れ1,2」(1995)「沖縄文化の軌跡」(沖縄県立博物館・美術館開館記念展,2007)、「移動と表現」(2009)。アメリカ現代美術から沖縄戦後美術を中心に評論活動を展開。

 

鈴木勝雄:1968 年東京生まれ。東京大学大学院修士課程修了(美術史)。1998 年より東京国立近代美術館に勤務。専門は日本および西洋の近・現代美術。同館での企画展に「ブラジル ボディ・ノスタルジア」(2004年)、「沖縄・プリズム1872‐2008 年」(2008 年)や「実験場1950s」(2012 年)などがある。