Report イベント報告

シンポジウム「2000年代の沖縄における美術の検証」

2019.03.13

日時2019年1月27日(日)13:30〜16:00
収録場所沖縄県立博物館・美術館 博物館実習室
ゲストNPO法人raco活動報告:宮城未来
第1部 事例発表者:ティトゥス・スプリー、阪田清子、町田恵美
第2部 ディスカッション:上記のメンバー+樋口貞幸(司会)

沖縄県立博物館・美術館、博物館実習室にてシンポジウム「2000年代の沖縄における美術の検証」を開催した。はじめに、弊団体代表理事宮城未来より2014年に立ち上げた前身のsima art laboから現在に至るまでの活動についてwebサイトを見ながら紹介し、次に、本シンポジウムの前段として行った関係者へのインタヴューについて報告した。

 

NPO法人raco活動報告:宮城未来

 

第1部は、2000年代のアートの動きや展覧会などについて、ティトゥス・スプリー氏、阪田清子氏、町田恵美氏に登壇頂き、それぞれ事例報告を行った。ティトゥス氏は、2001年から2011年まで活動をしていた前島アートセンターについてと自身がディレクターを務めた国際アート展wanakio(2002,2003,2005,2008年の4回開催)について報告した。阪田氏は、自身が作家活動を始めた2001年以降のアート状況や、それと並行しながら活動をしているwebサイト・雑誌・オルタナティブスペースについて報告した。町田氏は、紆余曲折しながらも2007年に開館をした沖縄県立博物館・美術館の経緯とその開館前後の様子、また、近年活発に美術活動を行なっている団体について報告した。

 

ティトゥス・スプリー氏、阪田清子氏、町田恵美氏

 

第2部では、会場の方々からも2000年代の沖縄における美術について意見を伺いながら、自由なディスカッションを展開した。客席からはアーカイヴがいかに必要かという意見が挙がるとともに、その活動を行なっている弊団体について賛辞を頂いた。また、情報誌を運営する団体からは、現在までに蓄積しているアート関連の情報を資料として協力できないか、といった申し出があった。一方には、アーカイヴは選択する者の視点によってその内容が変化する危険性について指摘する意見も挙がった。別の意見では「広い意味で、2000年代の沖縄の芸術をどのように次世代に引き継いでいくかというところで、2011年の前島アートセンターの解散前後辺りからの様々な活動についても聞きたい」、「2000年以降は、SNSの広がりにより急激にアーティストの制作方法や発表が変わってきた印象があり、彼らがどのようにこれからアート活動を行なっていくのか」、「前島アートセンターの解散後、アーティストがオルタナティブな活動へ自由に展開していったことはとても大きく、それによりアートの可能性が広がってきたのではないか」など、今現在の沖縄のアートシーンに関わる意見を多数頂き、活発な議論を交わすことができた。

 

会場の方々からも2000年代の沖縄における美術について意見を伺いながら、自由なディスカッションを展開。

 

登壇者のティトゥス氏は、当時の前島アートセンターの組織形成について、「年配から若いアーティスト、地域の人たちとの関わりから県外・海外との繋がり、アートに関心がある方からあまり関心のない方まで実に多様な人々がひとつの場を作っていた。そのエネルギーが前島アートセンターという一つの場に集まっていた。」と話し、美術館開館時に新聞紙面上やシンポジウムでその是非を問う議論を展開していたアート関係者や教育関係者など異なる立場にいた理事の在り方にも触れた。また、阪田氏は「前島アートセンターは人との橋渡しをするようなこともあり、希望的で緩やかな組織体制があった。」と話した。町田氏は、沖縄県立博物館・美術館の役割について、調査研究機関として情報の集約やそれを担う人材についての重要性に触れ、NPO法人racoのような民間団体や個人の研究者との連携を示唆した。

 

元前島アートセンター理事長の宮城潤氏

後半では、会場にいた元前島アートセンター理事長の宮城潤氏に意見を仰いぎ、「前島アートセンター自体、中心が曖昧でどこに向かっているのかがわからなくなることもあったが、それでも10年間続いたことが奇跡だった。」と当時の活動を振り返った。また「現在まで様々なアートの動きが起こるが、過去にあった事柄やそれを経験してきた人たちの知恵が活かされている。その人たちの存在が前島アートセンターを支えていた。」と、2000年以前に起こっていた活動とその繋がりの重要性を語った。

司会の樋口貞幸氏司会の樋口貞幸氏は、「美術の記録は、その当事者だけの責任ではなく、美術批評や美術史などの研究者も一緒になって考えていかなければならない。」と話し、「アートの周りには社会と密接したムーヴメントが必ず起こっており、それが同時に起こった中で作品が作られてきている。そのムーヴメント自体の記録の取り組みが今現在始まっている。」と、森美術館のMAMリサーチの事例を挙げて多角的に記録していくことが重要であると意見を述べた。そして最後に、NPO法人racoのこのような活動が今後、沖縄県内外で起こるアートのムーヴメントをアーカイヴすることに繋がっていくのではないかと締めくくった。

(会場撮影:仲宗根香織)

 

ゲスト略歴

ティトゥス・スプリー:琉球大学教育学部准教授。東京の向島でのプロジェクトをはじめ、沖縄市の銀天街など「まちとアート」に関わる活動を手掛ける。wanakioの企画実施、前島アートセンターでは副理事(2003~2011)を務める。

阪田清子:美術家。家具や日用品・自然物などを素材として用い、日常を問いただすインスタレーション作品を発表。近年の展覧会に「平昌ビエンナーレ」(2017、韓国)、「水と土の芸術祭」(2018、新潟)、「新・今日の作家展」(2018、横浜)など。

町田恵美:沖縄県立博物館・美術館指定管理者の教育普及担当学芸員(2007~2016)を経て、現在沖縄を拠点に県内外のプロジェクトに関わりながらフリーランスのエデュケーターとして活動する。

樋口貞幸:「オフィス・へなちょこ」を中心に、(公財)沖縄県文化振興会・プログラムオフィサー、NAMURA ART MEETING’04-’34事務局、NPO法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)監事等に従事。社会運動としてのアートに関心を持つ。