Report イベント報告

シンポジウム「沖縄における芸術祭について」第一部

2020.02.08

日時2020年1月26日(日)14:00~16:00
収録場所ひめゆりピースホール(那覇市安里388-1)
ゲスト宮城潤|wanakioディレクター/若狭公民館館長
菊地竜生 うるまシマダカラ芸術祭プロジェクトディレクター/(一社)プロモーションうるま
仲里安広|マブニ・ピースプロジェクト参加作家/美術家
仲程長治|やんばるアートフェスティバル総合ディレクター
司会:樋口貞幸|オフィス・へなちょこ主宰

宮城潤さん

wanakio実行委員会のディレクターをしていました、宮城と申します。
wanakioというイベント、2002年から全部で4回、アートイベントなんですが、私とティトゥス・スプリーとふたりがディレクターなんですけど、実行委員会形式でいろんな人が関わったものです。開催が2002、2003、2005、2008と十数年前ですので、私は殆ど覚えていない状況なので、お手元にwanakioと書かれた資料があります。これはwanakio実行委員会がまとめたものではなくて、racoのみなさんが作成した資料です。こちらでどんな場所で行われたかなどは見ていただきたいと思います。
私の話は短めにして、現在行われているプロジェクトの話を中心にしていただいた方がいいかなと思いますので、後半トークセッションでお話しできたらと思います。とはいえ、全然イメージができないとあれなので、youtubeを探したら幾つかあったので紹介したいと思います。

宮城潤さん

――映像みながら
wanakioは2002年に始まったアートイベントですが、那覇市の農連市場、いまは立て替えられました。それと前島三丁目、当時は前島アートセンターの拠点があった場所でそこを中心に始めました。2002年はティトゥスさんが、前島を私が見る感じで始まりました。東京のキュレーターも関わって企画していきました。市場とか街のなかを歩いて、そこにあるもの、人とか歴史とかと関わってアーティストがその場で作品をつくっていくプロジェクトでした。農連市場の空いているスペースを使って、仮設でつくっていく。前島アートセンターの高砂ビルを使って、地域の空き店舗を使って展覧会をしていきました。
特徴としては、展覧会だけではなく、トークイベント、市場のなかでシンポジウムをしたり、街歩き、建築家の方だったり、リサーチとして街を歩いたり。海外作家や県内の留学生たちと農連市場の食材を使って国際キッチンワークショップもしました。あと琉大の教育学部の先生や学生さんといろんな子どもワークショップを開催しました。アーティストによるワークショップもあったのですが、実際街のなかで、地域の魅力を発見することをテーマにしたワークショップかなと思います。
2003年になると前島と農連市場だけでなく、そのあいだにある地域、平和通り、水上店舗なども会場にしました。オープニングの様子です。平和通りとか夜になると停電しているのですが、夜人通りが少なっていく街を二次活用として蚊帳をひろげてイベントをする。街のなかでいろいろイベントと美術展をやる。草の根的な緩い実行委員会形式だったこと、アーティストイニチアティブではなくて、アート以外の分野の方が多く実行委員会にいたなと。あと行政があまり関わっていない。自分たちが勝手にやっているというのが特徴だったと思います。

仲里安広さん

私は、2015年からマブニピースプロジェクトに参加しております仲里安広と申します。現在は実行委員として参加、出品もしています。
では、マブニピースプロジェクトってなんのためにやっているかということで過去振り返り、これまでの歩みを説明していきたと思います。もともとは戦後70年になにか美術でと立ち上がりました。すでぃるプロジェクトのひとつでした。佐喜眞美術館や浦添市美術館でも開催されました。「2015年、戦後70年を迎える現在、沖縄は自らの強い意志をもって新しい歩みを始めようとしています。政治は沖縄のアイデンティティーを掲げ、自己決定権の獲得に向けて大きく舵を切り始めました。戦後70年の節目に沖縄文化史を再評価し再構築することであり、〈私たち〉の沖縄文化を自らの手に取り戻すことにほかなりません。本プロジェクトは戦争と平和についてアートを通して深く考えるものです。(中略)広く平和について沖縄から発信するものです。私達は、このような視点から沖縄美術の再考と解釈を行い、同時に沖縄の「場」から“すでぃる(孵化する)”リアルな表現を浮上させることを期待しています。そしてこの取り組みを通して、沖縄の私たちが自らの「場」で、湧き出る「表現」を豊かに開花させていくことを実現させます。戦後70年の節目に、私たちは「すでぃる-REGENERATION」プロジェクトを立ち上げ、沖縄文化の継承と、沖縄美術の現在を切り開き、次世代の望まれる未来を創造することを目指します。参加はそれに賛同できる作家を呼び掛けて開催されたものです。最初は、翁長直樹さん、上原誠勇さん、比嘉豊光さん、豊見山和美さん、仲村美奈子さんで、今は比嘉豊光さんだけで他の方は実行委員ではありません。ただの展示会ではなくて、アートを通してひろげていこうというのがありました。

仲里安広さん

――画像をみながら(各会場の説明)
wanakioに参加した作家も何名か参加しています。2015年、当初私も参加したときはこれで終わりかと思いましたが、この活動は大事なんじゃないかと次年度も続けたいと、2016年は摩文仁を中心に進めていました。テーマは「平和鎮魂」ということではあるんですけど、年ごとに設定しています。2016年は「響く、繋がる、創造する、いのち」、摩文仁を中心に展開されたことと、次世代プロジェクトとして中学生も参加、糸満市役所で開催しました。

――画像をみながら(作家の説明)
展覧会自体は、趣旨に賛同する方は誰でも参加できます。二年目は浦添に参加した作家も摩文仁で展示し、人数が増えました。劇団もプロジェクトのひとつとして進めています。
2017年、あたらしく南風原文化センターが加わり、私が展示しました。こちらはキャンプタルガニーです。2018年は海外の作家も参加しました。済州の作家も参加して、当初目標に掲げていた国際交流も叶った展覧会です。慰霊碑がある白梅サイトも私が企画して、高校生が参加する展示を開催しました。ひめゆりピースホールでも展示しています。済州との交流も行っていて、マブニに参加した作家が済州でも展示しました。次世代プロジェクトⅡということで沖縄国際大学にも参加してもらいました。今日配布している冊子の資料をご覧ください。2019年は40名と人数もだいぶ増えました。韓国、台湾からも参加しての展覧会となりました。しまくとぅばの演劇も続けています。やんばる、大浦湾の方にひろげて、多くの方々に協力いただいての開催です。
マブニピースでは冊子を残しています。この記録をみればだいたいのことがわかるかと思います。今年も開催します。

仲程長治さん

総合ディレクターの仲程です。やんばるアートフェスティバルは北部地域を舞台とした総合芸術祭で、今年で三回目の開催となりました。毎年コンセプトテーマを決めていることが特徴で、今年は「山原黄金之森(やんばるくがにぬむい)」、ヨーロッパ、台湾、日本全国から約40組のアーティストが参加しました。
いま出ている映像は去年の様子です。昨年のテーマは「ヤンバルネサンス」でした。今年の映像は(終わったばかりで)間に合いませんでしたので、昨年の映像を見ながら話していこうと思います。これは「大砲を積んだポン菓子をつくる」という作品です。なぜ大砲かというと、ルネサンスの三大発明の一つに火薬があるから。そんなふうにテーマと繋がっています。

仲程長治さん

――映像みながら
毎回、まずアーティストさんにやんばるに来てもらって、滞在していただいて、やんばるからインスピレーションをいただく。そして地域のみなさんと一緒に何かをつくっていくことをしています。メイン会場は旧塩屋小学校で、この作品(yotta「チャンプレイグラウンド」)は運動場でつくっています。あとは体育館や教室。毎年イベントが始まる前には、安全祈願を主催者の皆さんでやっていて、「今年もよろしく」と地域の方たちと拝所や御嶽を五か所くらい回ります。これはオープニングレセプションですね。これは毎年、参加アーティストやスポンサーさんたちが集まって、オクマリゾートさんでやっています。
これは、壁面にある子どもたちの絵に重ねて新たなアートを描いているところです(DOPPEL「やんばるシーサー」)。こちらは、周囲の緑を数年かけて育てていこうという作品(多田弘×濱元朝和「アグーの森」。藤代冥砂さんの作品「琉球の君」のモデルも地域の子どもたちです。中国の現代アート作家の孫遜(スンシュン)は、家庭科室を見て「ここで居酒屋をやりたい」と(「小子居酒屋」)。そして自分で料理をして一夜限りの居酒屋という作品をつくりました。このガラス玉がチケットで、フルコースで料理が出てくる。メニューもお皿も全部作品で、彼自身がつくったものです。居酒屋のスタッフも中国から来ました。
Usaginingen(ウサギニンゲン)さんのステージは、特に子どもたちに人気です。これはやんばるの流木でつくった作品ですね(福本健一郎「あめつちのかけら」)。私の作品(仲程長治「すでる〜原琉球のメタモルフォーゼ」)は繭をつくっていて、今年はこの繭から蝶人間に生まれ変わる作品をつくりました。写真とワイヤーアートを組み合わせた展示になっています。また、クラフト(工芸)にもさらに力を入れていこうと、今年からはもっと大きな教室で展示・販売をしています。
こちらは海洋博会場になります(河口洋一郎「海の生命のインテリジェンス」)。淀川テクニックさんの漂着ゴミをつかった作品は、やんばるの海岸から拾ってきたゴミで毎年つくっています。台湾の原住民アーティストが開催しているワークショップも毎年大人気です。こちらは飛生アートコミュニティーの鳥の巣(「ヤンバルネスト」)、実際に寝てみるとワラがふかふかしていてとても気持ちよかったです。
昨年は「文化庁メディア芸術祭 やんばる展」も同時開催されていましたので、映画「この世界の片隅に」を体育館で上映した時に女優ののんさんも来てくれました。総合芸術ということで、音楽も食もやんばるから得たインスピレーションでやってもらいました。これは一夜限りのレストランイベント(やんばる野外手帖)で、食材も近隣の農家さんに協力してもらって、現代風の東道盆(とぅんだーぼん)をつくったりと、特別メニューをつくっています。クローズドパーティもこんな感じで「やんばる野外手帖」が担当しました。毎年12月後半から年を越して1月中旬まで、約1ヶ月間開催しています。

菊地竜生さん

プロモーションうるまの菊地と申します。シマダカラ芸術祭を説明いたします。
自己紹介として、もともとは宮城県の出身で、そちらのNPO支援組織にいました。今回に関することでいえば、石巻のRebornアートフェスティバルのスタッフをやっていました。その後、こちらに移住しまして、うるま市の平安座島に住みながら、地域づくりに関する仕事をしています。

菊地竜生さん

――画像をみながら
うるま市の島嶼地域はこれら5つの島です。シマダカラ芸術祭を話すのに欠かせないのは、イチハナリアートプロジェクトです。こちら2012年から17年まで行われていました。大きくは第一期と第二期に分かれるかなと思いまして、伊計島の伊計島小中学校が統廃合で廃校になり、急速な人口減少が起るなかで伊計島をアートの島にしよう、廃校になった学校をまるで美術館のようにしようということでプロジェクトが行われておりました。その後、伊計小中学校がN高等学校になりその場所を使えない。また伊計島以外でも開催したいということで、海中道路からつながる4つの島、伊計島、宮城島、浜比嘉島、平安座島での開催となり、名称を+3というふうに変えております。その後、2018年に開催中止となりました。これは島の人との距離が徐々に離れて行ったのではないか、作家の発表の為だけのイベントになっていないか、島の方が参加しにくい、なにをやっているかわからないという声とか、主催者側が島の声にきちんと耳を傾けていたのか、そういうコミュニケーションの話だったり、地域活性化というけどイベントが終わったらなにもないじゃないかとか。このとき、うるま市の観光物産協会が受託をしていましたが、4つの島に範囲をひろげたことでまわりきれない声など満足度がさがっている現状がありました。
2018年、なにをしたかというと島で行うアートプロジェクトのための対話を行っております。島の方やイチハナリの参加アーティスト、運営側、来場者との対話を設けました。ゲストをお招きしたフォーラムと、ゲストを設けないオープンミーティングとして3回議論を行いました。そのなかで、パーラー公民館などでも出ていた藤浩志さんが言っていたプロジェクトづくりには4つの人材が必要で、プロジェクトを行うことで地域が豊穣していくんだという話がありました。イチハナリアートプロジェクトを振り返り、よかったこと、反省すべきことを整理しながら、島で行うアートプロジェクトの未来像を描きました。
議論の中で出たのが「そもそもアートってなんだろう」という問い。対話を経て島の暮らし自体がアートではないか、島の人が当たり前と思っていることをアートとして捉えようと整理されシマダカラ芸術祭が生まれました。。シマダカラには、島の文化や歴史などは島の宝である、あと島だからできる芸術祭をというふたつの意味を持っています。
対話からみえた島人の思いは、島の住民が直接関われること、島の伝統文化や島で生きる誇りと尊厳を再確認するような場、島の人が地域外の人と関わることで精神的健康を得られたり、幸福度が増加するような取り組みが期待されていました。そこで芸術祭の考え方として「地域の持続性向上」、「新しい人の流れをつくる」、「地域経済効果」、「地域人材への投資する」これらの4つを軸に考えています。
運営体制につきましても、観光物産協会は事務局として、実行委員会と自治会長が委員の制作委員会を発足しました。作家にも委員会側からこのようなお願いをしました、「眠っていた物事を可視化すること」「あたりまえにあるものをアートを通して認識できるようにすること」など。作品の作り方も自由につくってくださいというより地域のニーズを聞いて作家がコンテンツ化していく地域ニーズ型、もしくは地域の人では想像できない未来を可視化するクリエイティブ型のいずれかです。参加する作家さんは地域と関係を深められることが大切と考えており、アーティストインレジデンス経験者、沖縄県内在住作家を招聘しています。その方々と島をフィールドワークしながら、島の人たちと関係を深めて島人が大事にしている価値観を知り、制作の材料にしていただきました。

――映像上映
こういった集落のなかに点在する作品も残しています。イチハナリと違うのは、エリアをある程度まとめて作品を巡る時間を短縮しました。伊計島にまつわる漢詩をもとにした作品です。うすでーくの保存会と照明作家さんとのコラボを夜のイベントとして開催しました。
来場者アンケートは92%の方から好評でした。過去は満足度がさがっていたのが、あがっています。終わったあとには「イマダカラゆんたく会」、いまだからシマダカラ芸術祭を振り返ろうと地域の方と作家さんに集まっていただいて、課題や提案のワークショップをしました。
これからのシマダカラ芸術祭は、異日常つまり東海岸にしかない日常をどう大事にしていくか、また産業のもとになるような島の風景、文化、歴史を守る0次産業的な取り組みををどうするかという地域を守る取組み。また課題解決型だけでなく遊びの中から地域づくりや地域課題をどう解決していくか。。地域づくりも決められたビジョンに向かうだけではなく、みんなでわちゃわちゃ楽しんでいくなかで地域の未来につながっていくのではないか。またサスティナブルツーリズムとして地域の持続可能性を守りながら、どう外に出して稼いでいくかというのも考えなければと思っています。最近、自分たちが関わっていない「シマダカラ」のキーワードを使ったイベントが地域で開催され、シマダカラという言葉がいい意味で独り歩きしている。アートプロジェクトを行うことで地域が豊穣化され始めたので、もっとこれを重ねて行きたいと思います。